「ベンチャー社員としての宿命」僕は彼女に妊娠を告げられた|第6話
突然の妊娠発覚から半月が経ち、彼女が妊娠7週目を迎えようとしていた頃。
朝の電車に揺られながら、僕は新しい不安に頭を悩ませていました。
それは、職場への妊娠報告。
本来ならば、仕事は仕事で勤しみ、彼女が安定期に入ったタイミングで上司や同僚に報告をすれば、何の問題もありません。
しかし、僕の場合は全くの例外でした。
というのも、僕が勤めているのは、先輩が友人と立ち上げたベンチャー企業。先輩は副社長を、社長は先輩の友人が務めていました。
遡ること今から3年前。
転職を考えていた当時の僕は、仕事や人生についてちょくちょく先輩(現・副社長)に相談に乗ってもらっていました。
そして自分の中で散々悩んだ末、思い切って仕事を辞めて、新たな職探しを開始することに。
辞めたことを先輩へ報告しに行くと、
「えっ、マジで!?大丈夫?(笑)・・・次の仕事が見つかるまで、うちの会社で勉強でもしてみるか?」と声をかけてくださり、ひょんなことから今の職場にお邪魔することになりました。
いま振り返れば「暇なら手伝わないか?」くらいの軽いノリで誘ってくれたのでしょう。
当の僕自身も
「行ってみたいし、少しでも今後の人生に役立ったら良いかな」
くらいの、本当にそんな軽い気持ちでした。
そうして、オフィスに少しずつ顔を出すようになり、いつの間にか毎日のように出勤するのが当たり前になっていました。
ただ、そのときの職場は僕のようなバイトが他に数人いるだけで、正式な社員は社長と副社長の2人のみ。
「僕も新しい仕事を探さないとな〜」と、内心では焦りを感じていました。
次の仕事を心配しつつも、いつも通りオフィスに出向いたある日、
僕は経営陣に呼ばれて、「正式に、うちの社員にならないか?」という主旨のお誘いをいただきました。
「まさか、自分が社員第1号になるなんて!」
今でこそ社員は増えたものの、当時この“社員”という言葉がどれほど重い意味を持っていたか。
それだけに、正式な誘いを受けたときの嬉しさは、今でも鮮明に覚えています。
そんな感謝してもしきれない上司だからこそ、すぐにでも妊娠報告したい気持ちは山々でした。
しかし、
「結婚はいいけど、子供はもうちょい待ってなー(笑)」
今年の明けから彼女と同棲を始めた僕に対して、上司は冗談交じりにこんな言葉を口にしていました。
関わる人々が増えだして、今は会社として更なる高みを目指す大事な時期。
それは僕も一番に自覚しており、
「しばらくは仕事に全力を尽くす!会社を大きくする!」
そんな言葉を周囲に公言していましたし、
上司にも
「もちろんです!僕もまだ子供は早いと思ってます(笑)」
と伝えていました。
そんな矢先に発覚した“彼女の妊娠”。
きっと喜ばしい出来事だけど、僕は
「上司との約束を破ってしまった。」
「この状況でみんなに負担をかけてしまう。」
そんな罪悪感で胸がいっぱいでした。
人間て愚かですよね。
「できることなら、ギリギリまで隠し通したい。」
といった卑怯な考えまで頭に浮かんだくらいです。
ただ、彼女の診察や家族周りの挨拶など、イレギュラーな休みが必要になる可能性も十分にあり、その場合は職場のみんなの協力が不可欠になります。
同僚にどんな反応をされるのか分からない。
上司に怒られるかもしれない。
職場の信頼を失うかもしれない。
そんな不安や恐怖でいっぱいでしたが、
彼女の妊娠は、もう揺るがない現実。
本当に職場のためになるのは、早く伝えることかもしれない。
後ろめたいことほど、なるべく早く伝えるのが吉と言います。
多くの葛藤の中、最終的には上司や職場に妊娠報告をしようと決心しました。
その瞬間、電車のドアが開き、最寄り駅に到着。
電車の中で大きな決意を固めた僕は、軽やかではないものの、いつも以上に素早い足取りで会社に歩き始めました。
<続く>
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