「母への妊娠報告」僕は彼女に妊娠を告げられた|第5話
彼女が妊娠6週目を迎えたある日の帰り道、僕は母に妊娠報告をするか悩んでいました。
というのも、このタイミングで知ったのですが、妊娠報告は安定期(だいたい妊娠16週目頃)に入るまで待つのが一般的なんだとか。
まだまだ流産の心配があるからです。
彼女のように妊娠6週目の段階で報告をするのは、もしもの事態になったとき、周囲の人に変な気を遣わせないようにするため、控える方も多いそう。
「だから芸能人は、安定期に入ってから世間に妊娠報告をするのか。」
そんなことを考えながら帰りの電車に揺られつつ、自分たちにとってのベストな妊娠報告のタイミングを模索していました。
悩むことざっと一時間。
ここ数日、電車の中で頭に浮かぶのは母への妊娠報告ばかり。どこか落ち着きのない状態が続いていました。
「うん!もう、いくら考えてもキリがない!」
思い立った僕は、本当に親しい人には少しずつ報告していくことを決意。
そして思い立ったが吉日、最寄り駅についた僕はおもむろにスマホを取り出し、母に電話をかけました。
「もしもし?どうした?」
思った以上に素早く電話に応じた母に驚きながら、一度深く呼吸をして
「実はさ、彼女が妊娠したんだ。それを言おう思って電話した」
ここ何日か悩んでいたのが嘘かのように、僕はストレートに母に彼女の妊娠を報告しました。
報告できたことにホッと安堵して、内心浮かれている僕に対して、
「最低な男になるの?それとも父親になるつもり?」
冷静な口調で母が聞いてきました。
「最低な男・・・?」
いまいち状況が理解できず困惑する僕に、「めでたいことだけど」と前置きをしたうえで、母はこう続けました。
「子供ができたらもう、あんた自分のためだけに生きられないわよ?覚悟がないなら堕ろしてもらうなり、費用を払うなりして、最低な男として実家に戻ってきなさい」
自分が親に苦労をかけてきた分、この母の言葉は僕の心に深く突き刺さりました。
母の偉大さと、親になる責任の重みを感じつつ、父親になる覚悟を決めていた僕は、
「これから厳しいのは分かってる。それでも彼女と一緒に育てるつもり。それは、彼女も同じ気持ちだと言ってくれてるよ」
と、力強く母に伝えました。
「わかったわ。確かに子供ができた以上、そんな悠長なことは言ってられないわね。大変だと思うけど、二人で協力して頑張んなさい!」
厳しくも、最後は優しい言葉をかけてくれた母。
「ありがとう。とにかく必死で頑張るよ!」
母に精一杯の感謝を伝えると
「お父さんには内緒にしておくから。近いうち二人で直接言いに来なさい。お母さんもその時はじめて聞いたことにするから。じゃまたね」
最後まで僕に配慮してくれる言葉を言い残し、母は電話を切りました。
厳格な父には、何を言われるかわかりません。
「さすがに殴られるかもなー。」
そんな一抹の不安を抱きながら、まず母に妊娠報告できたことで爽やかな気分な僕。
自分では本気の覚悟ができていたつもりでも、親からすれば覚悟などして当たり前のこと。
親になる責任の重み、そして、自分をここまで育ててくれた母の偉大さを実感しながら、僕は彼女の待つ家に向けて歩を進めました。
<続く>
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